逃れることなど叶わず 弟が狂喜乱舞した、忌野暗殺指令。 どう言ったところで、結局はやらなければならないのだ。 唯一の生き残れる形が、忌野暗殺成功という、まるで雲を掴むようなそんな話で。 私はどうしようもなくて、笑う弟を眺めながらただ。 初めて彼を見たのは何時だっただろう? 方や、顔すら上げることの叶わない、切り捨てられたところで文句ひとつ言うことの叶わない矮小な私。 そこにある余りにも大きな差は、妬みや僻み、恨み事など抱くのも馬鹿馬鹿しくなるような。まるで違う世界の御伽噺のようだった。 私は目の前に繰り広げられている絢爛豪華な絵巻物の御伽噺に魅せられて、憧れを抱く普通の愚かな女。 一体、いつ私達の運命はこんな風に交差することになったのかしら? これは運命の交差、なんてものではないのかもしれない。 どうしようもない。 「ねぇ、九郎…」 呼びかけ、手を伸ばせば。 九郎もわかっている。 これが、私達の終わりになりかねないことを。 生き残れる確率が、極々僅かだということを。 その唇の暖かさを感じながら、私はそこに生命を見る。 生きている私達の、息吹を見る。 その極々僅かな確率に賭けて。 「きっと…上手くいくわ」 これがどれだけ、馬鹿馬鹿しいまでに希望的な言葉か理解していながら。 そして同じことを、充分理解している弟は。 「当たり前だ」と。 私達はこうやって、お互いに。 そうやってしか。そうでしか生きていけなかったの。 きっと上手くいく。きっと… そう、嘘をつき続けるしか…
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