PEARL WHITE
見たことがナイわけではなかったが、どうやって作られるかなど、考えもしなかったのだ。 クリスマスを二週間後に控えた週末。 特別な人に、少しでも喜んでもらえるように、特別なプレゼントを。 街をあてどなく、何か気になるモノはないか、とさ迷ってたどり着いたのは女性への贈物の基本とも言える装飾商。 彼女の笑顔。 ソレを思い描きながら商品を眺める。商品の横に笑顔が思い浮かばない物は却下。 ピタリと足が止まったと同時に店員がやってくる。 綺麗にラッピングされた箱。コレを開ける時、なんとも言えない気持ちになる。 開けられる箱。 そして彼女の笑顔。 「真珠…!綺麗…」 彼女の笑みにつられて、自然に自分の顔にも笑みが浮かぶ。 「付けてもいい?」 当然、と頷いて。 「…真珠、て…貝から出来る、て知ってたか?」 「知ってたわ」 やはり、常識だったようだ。俺は少し照れながら、ソレを知らなかったことを白状した。 「不純物を体内に取り込んで、こんな美しい物を造りあげるんだ」 彼女の耳元で乳白色に輝くソレを眺めながら、俺はその場の、彼女が作り出してくれる幸せな空気に後押しされて、何時もなら言わないことまで白状してしまう。 「どんな『不要』なモノでも、輝く宝石に変えてしまうんだ」 まるで、魔王軍の中で荒んでいた俺を連れ出してくれたお前のように。 彼女は何度かパタパタと瞬きをして、それから少し困ったような顔で笑う。
机の上で組んでいた俺の手の上に、そっと彼女は自分の手を被せて 「誰でも、どんな人だって『原石』なのよ」 と、まるで世界の秘密を教えるように囁いた。 耳に擽ったい言葉に、俺は重ねられた手を握る。 「だが俺がここにいるのは、お前のおかげだ」 彼女は、俺をどこまでも幸せにする笑顔を浮かべて 「私は何もしてないけど、それでも貴方がここにいてくれることは私にとって『特別な幸せ』だわ」 と、何よりも嬉しい告白をしてくれる。 きっと今、この世で1番幸せだ、と思っている者は大勢いるのだろう。 「俺は幸せ者だな」 「私もよ」 もう一度。 俺達はどちらともなく微笑みあう。 嬉しいことも、悲しいことも、辛いことも、楽しいことも。 そしてそれらは核になり、いつかはどんな思い出も光り輝く。 この真珠のように。 彼女と一緒なら、どんなことでも。 まるで宝石のように輝くだろう。 そう、きっと。 彼女の耳に輝く乳白色の奇跡は、まるで自分達のまだ作りえない未来を象徴しているようで。 俺はただ、その暖かな未来予想図を満ち足りた気持ちで眺めていた。
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背景素材提供 flower&clover 様