2 知らないふりを続けられますか

 

答えは『是』

 

目を瞑ることは慣れている。

耐えることも、諦めることも。

全て慣れ親しんだ、私にとってもう体の一部と化してしまったかのような感覚。

 

だが。

今。

 

いい加減鬱陶しい。

 

私は小さく溜息をついて、おもむろに振り返る。

案の定、予定外の行動だったのかずっとつけてきていた気配が反応出来ずに大きな音を立てた。

 

「…霧嶋」

 

全く。最初からバレバレなのだが。こっちが気付いていないとでも思っているのだろうか。

ガタン、と再び大きな音を立てて、頭上の排気ダクトからぼとり、と人が下りてきた。というか落ちてきた。

 

ゲゴ。

 

鈍い音を立てて。着地に失敗した霧嶋はその場でもんどりうっている。

 

…何処から、何を言うべきなんだろう…

突っ込みどころが多すぎる。

 

とりあえず、「大丈夫か?」と。

懲りもしないでつけまわしてくれている、刺客として命を狙っている男に対してかける言葉には不適切だとは思うが。

黒目がちな瞳が半泣きで潤んでいると、どうにもこうにも見ているこっちが情けなくなってきてしまう。

 

立ち上がりやすいように手を差し伸べると、その手を勢いよく叩き落して。

 

「ふっ!甘いな忌野雹!!」と廊下で大声を出すので、とりあえず。

間髪入れる間も与えずに、携えた刀で(勿論、抜刀はしていない)撃ち据えた。

 

霧嶋は今時聞かないだろう「ぎゃふん」という声を発して、再び廊下に蹲る。

 

 

…少々勢い良く叩き過ぎたかもしれん。

 

 

言葉で突っ込むのも面倒だったのが、行動に表れてしまったようだ。私としたことが。冷静にならねば。

 

反省しつつ、様子を伺う。

暫く、打たれた個所を押さえて、呻き声ともつかない声を発していたのだが。

 

腹筋だけを使って、びよん、と飛び上がると、びし、と指を指して

 

「いきなり何するんですか?!」と。

 

 

本当に、本気で聞いてるんだろうか?

いや、考えるまでもない。

この後輩は何処までも。痛々しいまでに本気だ。

 

 

「なんの前触れもなく人を打ち据えるなんて、非人道的ですよ!」

 

ああ。お前は刺客でありながら、大声をあげて襲ってくるタイプだよな…

てか、お前に非人道的とか言われたくない。そもそも人道を説ける立場じゃなかろうに。

 

 

全ての言葉を飲みこんで。

私は恭介が見ると竦み上がるだろう類の笑みをその顔に乗せて。

 

 

「じゃあ、前もって言おう。 殴る」

 

 

 

 

 

その後、保健室に満身創痍な霧嶋九郎が担ぎこまれたのは言うまでもないハナシ。

 

 



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