(エピローグ)

  

戦いは終わり、世界の危機は去った。

ダイは地上を救い、そして世界から姿を消した。

 

それはきっと、彼の父親が望んだ未来じゃない。

それはきっと、彼の祖母が望んだ未来じゃない。

 

 

少女は顔を上げた。

クリスタルに反射して降り注ぐ光は、静謐な青白い輝きを放っていた。

光は彼女に注いで、その顔を青白い色に染め上げながら、それでいて冷たい色を与えずにただ。

包み込むように。

 

クリスタルの柱。

ドラゴン領の聖地である山の頂にある宮殿の中に鎮座するソレは。

中にひとつの命を抱え込んでいる。

 

透明度の高いクリスタルなので、それを見ることは容易。

少女は、その決して目を開けることのない生き物をじっと見つめる。

そして、また目を閉じてクリスタルに額を押しあてた。

 

未だ生きている。

その生き物の鼓動を感じれるように。

 

そう、母の。

 

マザードラゴンの生きている証を感じるように。

 

あの日、魂と肉体を切り離した母は、まだ微かに生きている肉体をクリスタルの柱に封印した。

どれだけ保つかは解らないけれど、瞑竜によって施された邪悪な呪いの干渉を出来る限り遮られるように。

そして、自分の肉体を生かすことによって『成熟したマザードラゴン』が存在していると、世界に思わせるために。

 

残酷な運命の刃が、未だ幼い娘を傷つけないように。

また、自分が最後である、と示すために。

 

母は魂を兄に。

肉体を妹に差し出した。

 

運命とか宿命とかに縛られないように。

自分の足で歩けるように、と。

 

最後に。

あの日、母はそう言ったのだ。

 

それが、最後に聞いた母の言葉だった。

 

 

少女はクリスタルに額を押しあて続ける。

 

 

「……母様……自分の足で歩くってどうゆうこと?」

 

 

あの日以来、少女は母に何度も問いかける。

言われた言葉の答えは解らなかった。

 

未だ世界すら自分の目で見たことがない。

自分の翼すらない。

 

だから何度も、少女は母親に問いかける。

 

 

しかし結局、分厚いクリスタルの壁は彼女に何も教えてはくれなかった。

 

ただ、降り注ぐ光と、母が生きている限り失われない神聖性だけが。

 

世界の安定を約束するように、絶え間なく注がれていた。

 

 

 

 

そして、近い将来。

少女は答えを探すために、世界へと降り立つ。

 

 




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