02 なんてつれない
一瞥。
訪ねて行った時のアクション。
そのワンアクションで、忌野は全て終了したと言わんばかりに今まで行っていたであろう作業に戻った。
普通、友人が訪ねてきたらほんの少しくらいは。
せめて挨拶くらいはするものだ、と思うが。
少し憮然としないわけではないが。
それでも追い出されないのだから、良しとするべきなんだろうか。
生徒会長室に設えてある来客用のソファに何時ものように座って。
とりあえずすることもないので、この部屋の主を観察することにする。
讃美され尽くしただろう人形のような容姿。
白い絹糸のような髪。
色素から見離された金色の瞳。
神経質に刻まれる眉間の皺。
潔癖症の為にその手を覆う白い手袋。
腰から外されて、直ぐにとれる場所に置かれた一振りの日本刀。
軍服を模した独特のデザインの、やや装飾過多な真っ赤な制服。
(そもそも、この制服はこの男が卒業した後、他に誰か着こなせるのだろうか?)
手袋に包まれた長い指が時折、こつこつと机を叩く。
どうゆう動体視力と判別能力をもっているのか解らないけれど、恐ろしい速さでスクロールされていくデスクトップ画面。
これがすべてちゃんとこの男の頭の中に演算処理して収録されていくのだ。
頭に超が付くような進学校で、成績常にトップの天才児。勿論全国模試もトップの成績を誇り、発表した論文が国内外問わずに高評価を得て、海外の大学から編入の誘いがあったらしい。
長期休みを利用して短期留学くらいならしてみたいと言っていた。
(それは少し意外ではあったが、興味のある教授がいるらしく、その講義を受けたいそうだ)
間違いなく、文句のつけようもなく、天才。
言い尽くされた感のある、些か陳腐にも聞こえる言葉だが。それでもその言葉が過大評価と取られることはないだろう。
そんなことを思いながら、目の前の男を見ていると。
ふ、とこっちを向いた。
刻まれた眉間の皺が深くなる。
その表情を俺達不良的表現を使って言い表すとすれば。
『何見てんだ?ああ』と言ったところ。
忌野的に表現すれば『鬱陶しいから見るな』くらいか?
そんなことを考えていると同時に忌野が想像通り。
「じろじろ見るな、気が散る。鬱陶しい」と言ったのでつい笑ってしまう。
気が散るも何も。
気が散ったくらいで作業が出来なくなる男じゃないし、それこそ同時に7つも8つも仕事を(文字通り)同時進行させることだって可能なのだから。然程支障を来しているわけではないだろうけれど。
きっと言えば今より更に機嫌を損ねる。
傍から見れば、今で充分機嫌は悪く見えるだろうが。
付き合いが長くなってきて、まだまだ底があることは経験済みだ。
…自慢にはならないが。
「…随分と楽しそうだな」
機嫌の悪い声音で言われて。
浮かんだ笑みを消して、取り繕うが時はすでに遅く。
忌野は再び仕事へと意識を移行してしまっている。
本当に、こっちに構う気はないらしい。
この距離感。
視線のみ、触れあうような。
それでいて追い出さない。
そんな。
本当に。
なんて、つれない。
だがそれがらしくて心地よい。
俺は懲りずに、笑いを零した。
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