04  ひなたぼっこ

  

日向の縁側。

麗らかな午後の窓辺。

稲穂の騒ぐ田の横のあぜ道。

 

そんな穏やかで心休まる憧憬。

それはまさにそんな感じの。

何処よりも心休まる唯一と言っても過言ではない。

 

締め切られた部屋。

間接照明の薄ぼんやりとした明かり。

籠に入れられた蟋蟀が、澄んだ音を奏でるのに耳を澄まして。

 

忌野雹は、まるで胎児のように丸まって、横たわる。

 

人前では決して見せない姿。

何処までも無防備な。

そして一人だったとしても決して見せない姿。

それは保護者が。守ってくれると、信頼出来る者が側にいなければ不可能な姿で。

保護者が守ってくれなかった子供にとって、唯一安心出来る場所。

そう。

唯一。

 

 

その小さな頭を撫でながら、燦斬(さんざ)は雹が散らかしたままの書類を拾い上げて目を通す。

雹はきっと頭に総て叩きこんでいるだろうけれど、それでも何かあった時に即座にフォローが出来る体勢を整える。

かの子供の眠りを妨げないように、そっと出来る限り音をたてないように携帯を操作して部下に指示を送る。

 

この部屋には時計はない。

しかし体内時計だけで充分に時間を計ることは容易だった。

まだ、眠らせておいてやれる。

まだ、小一時間程は。

総てから解放されて、自由な、夢の世界に留まらせてやれることが出来る。

 

たった十しか変わらない。

言うなれば、弟と言っても過言でない自分の主は。

やはり弟と呼ぶよりかは、子供に近い。

 

自分が彼の年齢の時には、もう既に彼と同じ場所か、それよりもっと酷い場所にまで足を踏み入れてしまっていたが。

それでも。

いや、だからこそ。

 

護りたいと。心の底から願うのだ。

 

型が付くからと解かれた絹糸を連想させるような、純白の、細い細い髪が絡まることなく指をすり抜ける。

確かな体温。

静かな呼吸。

人形のようだと、揶揄される容姿だが、無防備であけすけな寝顔を晒している今は、普通の子供の寝顔に見える。

整った容姿であることには変わらないけれど。

まるで、彼が大事に大事にしている弟のような。

そんな年相応の幼さと、大人になりかけの少し背伸びをした、そんな表情。

 

眺めて、少しだけ笑みが漏れた。

後数年もすれば、心身ともに成熟してこんな風に子供の顔もしなくなってしまうのだろうか?

それとも、子供はいくつになっても子供なのだろうか?

 

どちらにしろ、成長は喜ばしいことだし、甘えられることも嬉しいことだ。

 

自分の立ち位置は変わらない。

彼を護り、そして共にある。

ただ、それだけだ。

 

 

 

 

太陽の下でなど、生きていけない私達には。

ひなたぼっこなど出来ないから。

互いの体温と、存在を擦り寄せて。

迫る闇から心身を護るしかない。

 

互いが互いの太陽であるように。

互いが互いの日向であるように。

 

私達はこの道を進むしかない。

 

「…何があっても…」

 

呟きは子供の眠りを妨げることなく。

そして運命を妨げることも出来ないままに落ちて、消えた。

 

 

 


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