05 気付けばすぐ其処に
これもある意味好意なのだろう。
姉に比べて若干偏執的で粘着質。執拗で幼稚ではあるが。
忌野雹は背後を振り返るのも馬鹿馬鹿しく、ひとつ息を吐き出す。
振り返らずとも、相手の気配で誰が、何処ら辺の位置にいるのか大体想像がつくのだが。
これがずっとだと、これが普通になって、感じられなくなるのかもしれない。
空気の気配を読めないように。
考えて、あまりに馬鹿馬鹿しい発想に自ら失笑した。
このまま無視を続けてもいいのだけれど、それも面倒くさい。
窓の外は薄暗く、太陽が没するまであと僅かな時間しか残ってないことを伝えてくれる。
これから、私達の時間だ。
「霧嶋。飯にでも行くか?」
背後を振り返ることなく声をかければ、「行きます!」と何処か現金にも聞こえる程の勢いで返事が返ってくる。
此処ら辺の反応は、義弟と一緒かと。年相応の態度に苦笑を覚えながら。
「フレンチ、フルコース、ホテルご飯がいいです!」
「私は豆腐、鴨、京野菜、料亭がいい」
「鴨ならトゥールダルジャンでしょ」
気配が近づいてきたので振り返れば、嬉しそうに笑う後輩の姿。
その笑顔に根負けして、私は部下に店を予約する連絡をする。
電話を切った後。
とりあえず「隠れてるなら、話かけられても反応するなよ」と一応注意すると。
すっかり隠れていたことすら忘れ去った、間抜けな顔で霧嶋はこっちを見て。
思い出したのか、やや大袈裟すぎるリアクションで「先輩!食べ物でつるなんて卑怯ですよ!それが忌野雹のやることですか?!」と糾弾してきたので。
すっぱりと無視をした。
歩き出せば、今まで通り。
隠れているのといないのとの違いはあるけれど後ろを付いてくる。
子供のように文句を言って。
見当違いの我儘三昧。
それでもそれが『らしい』と思って不快にならない程度には慣れてきた。
きっと、これからもこの馬鹿は変わらないのだろう。
そう。
気付けば、すぐ其処に。
「霧嶋、少し鬱陶しいな。お前」
「それが狙いですよ!苛々して隙をみせたらいいです!」
「あ、そう」
少しだけ笑って。
私は猫のように、大きく一度だけ伸びをする。
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