業 | |
「雹」 名前を呼ぶと、顔を上げ、凛とした瞳で俺を見据える。 「その目は気にくわん」 さらりと。まるで夕食の献立でも提案するかのようにさらりと、日常会話のように滑り込む言葉に一瞬言葉が詰まった。 「父上が気に入らないのなら、必要などありませんから」 そう言って、妻とよく似た顔で、妻とは全く違う笑みを浮かべる。 「くだらないことをするな。馬鹿者が」 止めなければ、きっとそのままこの指は眼球を俺の目の前で抉り出しただろう。 「お前は少し自分に無頓着すぎないか?」 唇の端が微かに上がり、笑みを形づくる。 「・・・・父上が要らないという部分を全て排除していけば、私の体はすべて父上が必要なもので構成されていることになるでしょう? この馬鹿息子特有の、見るものを不快にさせる儚い笑みは酷薄ながらも酷く美しく、他人を情緒不安定にさせる。 しかしそれでも、これはどうだ?
俺は絶対の依存と信頼を全て俺に委ね切ってしまっている自我のもたない人形を目の前に、慄然とする皮肉な現状に笑みを零した。
もしも、俺がこの子に・・・・お前は必要ないのだ、と告げたら。
答えなど分かりきっていると言うのに。 背筋が、冷たくなる。 悪夢。 そして互いに、それが明けないことを知っている。
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背景素材提供 十五夜様