まどろみの午後



 昨晩も帰りが随分と遅くなってしまった。

 

 先に眠って良い、と言っているのに、息子は必ず起きて(?)待っている。
 時には、明らかに眠ってしまったのだろう、机の跡を額に残して。それでも、必ず満面の笑みで「お帰りなさい」と出迎えてくれるのだ。

 

 

 昨晩も、帰りは明け方近くだった。
 今日は久々に家にいられるのだが、昨日のこともあって、目の前の息子は酷く眠たそうで。

 

 「ラー、寝てても構わないぞ」

 

 見兼ねて告げても、曖昧に笑って「大丈夫ですよ」と返す。

 

 明らかに大丈夫ではないのだが。

 

 苦笑する。

 

 たまにしか、こんな風に昼日中一緒に居てやれないからか、必死に眠るまい、としている姿はいじらしくて。

 

 

 「ラー…」

 

 何度目かのまどろみに声をかけると、びくり、と体が震えて。
 それでも「大丈夫」と繰り返す姿は大丈夫どころでは全くない。

 

 「一緒に昼寝をしようか」

 

 だから私はひとつ提案を。
 たまにしかない一緒にいれる時間を、少しでも有意義に過ごす為に。

 

 ラーは一瞬、眠さを忘れたようにキョトンとして。小首を可愛らしく傾げてみせる。
 触り心地の良い頭を撫でてやると、嬉しそうに。

 

 

 

 小さな体はすっぽりと腕の中に納まってしまう。
 そして、この子がまだまだ幼いことを痛感する。

 

 か弱く、幼気な、私の大事な掛け替えのない息子。

 

 腕枕してやると嬉しそうに。留守中のことを話しているが、眠たいので話の内容は支離滅裂。
 それでも少しでも聞いて欲しいのだろう。
 すぐに眠りに落ちると思っていたのに取り留めない報告は暫く続いた。

 

 しかしとうとう。

 

 かくり、と。
 重くて堪らないといった風情の瞼が、とうとう耐え兼ねて。

 

 

 安心しきった、その穏やかな寝顔につい頬が緩む。
 愛らしい様。


 額にキスをして、その穏やかさに釣られて欠伸をひとつ。

 

 「おやすみ、ラー…」

 

 

 起こさないように。

 そして、良い夢が見られるように。

 この場所が、この子にとって安心出来る場所であるように。

 この宝物を失わないように。

 

 私は祈れる全てを込めて、呟いた。






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