雨降り



 雨の日は嫌い。

 自分が今日履いてるパンツの裾が長いことを思い出して、更に苛々する。

 路上に張り付いてる落ち葉も雨水を含んで、いつもの小気味の良い、『パリ』という音を放ってくれない。

 早く、家に帰りたい。

 

 「恭介」

 

 名前を呼ばれて、隣を見る。

 兄はこっちを見ようともしないで、口元に解るか解らないか位の笑みを浮かべて

 

 「綺麗なものだな」

 

  と、言葉を落とした。

 

 兄の声は雨の音と混じって、いつも以上に耳に優しく届く。

 

 「何が?」

 

 「落ち葉の色彩が」

 

  落ち葉。

  僕は足元で、雨水によって張り付いたソレを見下ろす。

 

 「…あんまり綺麗じゃないよ」

 

 「見てみろ。

 誰が配置したワケでもないのに なんという調和

 まるで計算され尽くした図画のようだろう?」

 

 兄に促され、足元から路上へと視線を滑らせる。

 

 確かに色とりどりの落ち葉が絨毯のように敷き詰められている。

 大袈裟に言えば、錦絵のよう、とも表現出来るかもしれない。

 

 だけど

 

 「僕は早く帰りたいの」

 

 パンツの裾はもうびしょびしょ。

 湿気で服も重い気がする。

 

 早く早く、と急かす僕に、今度こそ解る位の苦笑を浮かべて兄がついてくる。

 まるで困った子供を見るように。

 

 

 

 僕達は、落ち葉の敷き詰められた路上を足早に進む。

 足早に。

 足早に。

 

 そして、どちらともなく、ふふ、と笑った。








背景素材提供 flower & clover