見つけないで 久々にランチを一緒にしましょう、と言ったのは姉さんから。 二つ返事でOKして、お互いの仕事を手際よく片づけて。 ランチはこないだ出来た、ていう展望の良いお店にした。 そんな感じで。二人、サボりの計画を冗談交じりに話しながら。 午後からの仕事の為に英気を養わなくっちゃ。 テラスからは城下町が望めて。 すっかりお腹いっぱいになって。 あと数カ月したら、パプ二カは一年で一番美しい時期になる。 時期はズレてても、この国は本当に美しいわ。 それを。 姉が中断させる。 「アレ、ラーハルト君じゃない?」 全く、予測もなく飛び出した名前に。 見下ろす広場。指差す先。 「どれ?」 遠くてよくわからない。 「アレよ、今噴水の前…ああ、隠れたわ。 ………あ、出てきた。ホラ、あそこ」 姉の指を追って。 きっと。 多分。 あの方向は市場があるわ。 暫く、姿が見えなくなるまで目で追って。 顔を上げると。 にやにや笑う姉さんと、ばっちり目があった。 「…何よ…?」 「いいえ、次はラーハルト君なんだ、て思っただけよ」 瞬間。 体中の血が一気に顔に集まったみたいに。 「ちっ…違うわよ!!」 「あら。それにしては随分御執心な感じで見てたけど?」 にやにやと、くすくすと笑われながら。 だけど結局なにも思い浮かばないで。 残った珈琲を一気に呑んだ。 「知ってたけど面食いよね、貴女」 楽しそうな姉の問いに。 あんまり…ないわ(全然とは流石に言えない) 「…放っておいて」 言い訳するのも馬鹿馬鹿しくて。 私は空になったカップを手の中で弄びながら。 そこにはいつも通りの、賑やかな城下町の様子が広がっている。 「次は幸せになれそうなの?」 姉さんの声はほんの少し。心配そうな色を伴ってる。 「…わからないわ。だってアイツ、本当にイヤな奴なんだもの」 なんでアイツのことを好きだなんて思うのかしら? こんなにも嫌いなのに。 次の恋は幸せになる、て決めたのに。 なんでこんなことになってるのかしら? 気持ちは袋小路。 出口も、逃げ道もないのに私はまだ二の足を踏んでる。 けどきっと。 あの姿を見付けてしまったら、私の鼓動は気持なんか関係なく高鳴ってしまうのよ。 全く。なんて忠実な身体なのかしら。 「…やんなっちゃうわ」 独り言は弱々しく響いて。 机の上に置かれた手に、そっと姉さんが掌を被せてくれる。 「さぁ…ドーナツでも買って帰りましょうか」 その誘いはとても魅力的で。 |
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