甘えん坊


世間一般で、恋人と呼ばれる関係になってから。

彼女は酷く甘えん坊になった気がする。

 

付き合う前の彼女を思い出しながら、今俺の武骨な手の中にある彼女の華奢な手の熱を意識する。

仲間が一緒な時はそうではないが、二人きりだとすぐ手を繋ぎたがる。

頭を撫でて、と擦り寄ってくる。

昔してあげたのと逆ね、と膝枕をねだる。

 

気がつけば、二人の時は殆ど。
 
彼女は俺の腕の中にいる。

彼女の何かしら一部が俺に触れている。

 

 こんな甘えん坊だっただろうか?

 

思い返しても、そんな記憶は呼び覚まされない。

それとも俺が知らなかっただけなのだろうか?

ソレは少し、面白くない。

 

 「俺だけか?」

 

質問の意味がわからなかったのだろう。当然だ。

主語も何もない。

 

彼女は案の定きょとんとした顔を見せたが、その後少し考えるそぶりを見せて

 

 「ヒュンケルだけよ」

 

 と笑みを見せた。

 

質問の意味は通じてナイ為、答も何に対してかわわからないけれど。

ソレでも彼女の中で、何かが『俺だけ』だということに満足して、俺は繋いでいた手をそっと握り返した。

 

 

その内。

きっとコレにも慣れるだろう。

人間が苦手でスキンシップなど得意であるハズもない俺が、唯一触れていたいと想う体温。

しかし慣れた頃には、きっとなくては落ち着かなくなっていそうで。

 

俺は幸福に満ちた溜息を落とした。






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