5 どうして断定を避けるのですか

 

それは簡単なこと。

怖いから。

 

何事も曖昧なままで。まだ未来は選択の余地が残されているのだ、と思いたいから。

もう全てが終ってしまっていて、後の祭りだなんて知りたくないから。

だから、僕は。断定を避けて。逃げているのだろう。

 

「とはいっても。もうどうにもならん」

 

兄が忌野の正式な後継者だと発表するまで。もう時間は残されていない。

そしてそれは。

兄の出口が塞がれてしまうことに、他ならない。

 

「暫定、とかなんとか出来ないの?」

 

せめて。大学を卒業するくらいまで。いや、成人するまででも構わない。

しかし、僕のそんな些細な願いもはっきりと。兄は完膚なきまでに否定する。

 

「無理だ」と。

簡単に。はっきりと。断定してみせる。

 

どうして僕たちは双子なのにこんなにも違うのだろう。

どうして僕は兄みたいにきっぱりと、想いを断ち切ることが出来ないのだろう。

 

兄はそんな僕に「お前はそれで良い」と言う。

「諦める必要など、何処にもないのだ」と。

「迷えるうちは、迷えば良い」と。

 

迷って、断定を先延ばしにして、その結果。後悔するようなことになったら。

きっと僕は、僕自身を許すことなんて出来やしないだろう。

だけどそれでも決めることは、やはり怖い。

 

立ち止まってしまう。迷ってしまう。振り返ってしまう。

 

あの時、あの選択をしていたら。

この未来は、もっと違う形に出来たんじゃないのかな?

 

「何処まで考えたところで、そんなものはどうにもならんだろう?」

「考え続けることなんて、大半がどうにもならないことでしょう?

 人はどうにもならないからこらこそ、考え、悩むんだよ」

 

兄はまるで困った子供でもみるような眼で僕を眺めて。

「時間の無駄だ」と情緒も何もない言葉で締めくくろうとする。

 

 

「僕はね。兄さんと一緒に学校に通いたいだけ。もう暫く一緒にいたいだけ。

 それだけなんだよ」

 

僕が今、唯一と言ってもいいくらい。断定できる願い。

兄とは双子でありながら、ずっと、一緒に過ごせなかったから。せめて大学くらいは一緒に行きたかった。

せめて。

タイムリミットがあることは理解してても、せめて成人するくらいまでは一緒にいてあげたかった。

 

何処までも孤独に背負いこもうとしているのは見ていて解るから。

だからせめて。ほんの少しでもいいから。

ほんの少しでも長い時間、一緒にいたいのだ。

 

それは兄の為。そして僕自身の為。

 

 

 

「ねぇ。どうにもならないの?」

 

僕の声は。自然と震えて。

 

困った顔の兄は、言葉を探す様に逡巡し。

 

 

何か。言おうとしたのを。

 

「言わないで」

 

僕は遮った。

 

断定されるのは、とても怖いこと。

未来なんてものは、どこまでも曖昧であって欲しい。

 

 

そんな僕を見透かすように、兄は何も言わず。

 

そっと。

僕の手を握ってくれた。