(三)

 

 

「どうよ?にぃにぃ!!」

目の前に突き出されたトリュフ。なんとか丸にはなっている。(今までのはただのバブルスライム型だった)

しかし。それでも不格好なことには変わらない。

「確かに見栄えはそんなに綺麗じゃないかも、だけど問題は味よね★」

「外見も中身も重要だ。重要なのは中身だ、と綺麗事を抜かす輩も多いが、中身を知りたいと思わせるだけの何かがなければどうしようもなかろうよ?

 それの一番手っ取り早い方法が外見を磨く方法だろう?

 外見が素晴らしくても、中身がスカスカならがっかりだし

 中身が素晴らしかろうとも、外見が汚らしかったら誰にも興味を持たれない。

 恋愛にしろ、贈り物にしろ、食べ物にしろ、これが真意だな」

だから俺はもんじゃ焼きは認めない、と意味が解るような、解らないようなことを言って。何度か頷く。

「と言うことで、外見が醜ければそれだけで食べる価値がないということになる」

「酷っ!」

ぺいっと。突き出されたトリュフを払いのけて。トリュフはころころ、ココアパウダーを撒き散らしながらシンクを転がる。

落ちる前にレオナはソレを受け止めて、もう一度。ラーハルトに突き出した。

 

「食べ物を粗末にしないの!」

「中身、外見伴って初めて食べ物だ。これは食べ物じゃない」

「随分と食べ物になったでしょーーーーー!!」

 

確かに。バブルスライム時代のことを思えば、なんとも食べ物になった。少なくともトリュフには見えるのだから。

だがそれでも。

「トリュフってのはこうゆうモノを言う」

ラーハルトは小皿の上に、自分の作成したトリュフを置いて。横に置いた。

こうして並ぶと、一目瞭然。その差は嫌味すら感じるが。

「これが食べ物だ」と言い終わる前に、レオナはそれを食べてしまった。

 

もぐもぐもぐもぐ…ごっくん。

 

「…………えっと…………」

 

流石にその行動は予想してなかったので、ラーハルトはぽかんと。

レオナは飲み込んで、にやりと笑みを浮かべた後に「さぁ!次はにぃにぃの番よ!」と。

どうあっても味見を強制する姿勢だ。

「……絶対ディーノ様は趣味が悪い…エムなのかしら…」

ぶつぶつと口の中で文句を言いながら。それでも渋々、出されたトリュフを口に入れる。

 

「…」

「……」

「………」

「………美味しい?」

「………てめぇ………俺の真似をして作って、どうしてこんな味になるんだ…………」

 

ラーハルト自身、同じ材料だし。それこそここ最近つきっきりで教え込んだ分、多少は予想していた。

素人であることを差し引いても、まぁこの程度にまでは成長するだろうな、という程度は。

だがしかし。正直。

 

「センスがないのも程があるだろう!!」

「何よう?ちゃんと出来あがってるじゃない!固まってるし、分離してないし!

 センスで言えば、教え方が悪いんじゃないの?そっちのセンスがないのよ!!」

 

そもそも器用な人間に不器用な人間の気持ちは解らないものだ。

 

「これを出来あがってると言うか?これを!手造りという名前に甘えすぎだろ?!店でこんなん出したらクレームもんだぞ!」

「お店なんかしないもん!」

「そうゆう問題じゃない!店で出せないと言うことは、人に与えられないと言うことだ。

 自分で作って自分で勝手に食う分には問題はない。だがこれからこれを人にあげるとなると話は別だ。

 これは嫌がらせだ。食べものの形をした悪意だ。甘い匂いを発してる危険な罠だ。想いが籠ってるといか言う脅迫文を添えられて届けられた回避不能の悪夢だ」

 

そう、そもそもこの少女から受け取ったモノなら。きっとあの少年は食べるだろう。

それが例え、腐ったものでも。「酷いやーーー」とか言って。

その様が想像に容易くて、げんなりする。

 

「一生懸命作ったのに!」

「一生懸命作ればなんだっていいという話にはならない」

 

レオナとしては此処最近一番の出来だったのに。

流石に此処まで罵られれば。最初は言い返す気力もあったけれど、だんだんそれも無くなってくる。

 

「…そんなに酷い…?」

「…これをお前の身内同然の三賢者とかに食わせると言うならまぁ許そう。

 俺はこれを食べものとは呼ばないが、甘っちょろい世間はこれを食べ物だと許してくれるかもしれん。

他人が何を食おうと知ったこっちゃない。どれだけゲテモノ食いだとしてもそれは人の嗜好だ。他人がどうこう言うもんじゃない。

だけどこれをディーノ様に食わすとなると話は別だ。

 こんなもん食わせられん。却下。処分する」

 

落ち込んだ少女の表情に、多少心が揺れないわけではなかったが。

それでも主への忠誠心は揺らがない。

主に食べさせる、という名目でなかったら。世の中に溢れる、ままごとのような『手造り』チョコレートとして許容出来るものだけども。(材料が良い分、味も良い方だ)だが。掲げられているハードルは主へ贈られる食べ物なのだ。

譲れない。

 

「じゃあなんのために此処まで頑張ったかわかんないじゃない!」

「努力がいつも必ず報われるなんていうのは幻想だよ」

「…作り直す時間なんて、もうないわ」

 

普通の少女ならいざ知らず。少女は一国の王なのだ。

やらなくてはならないことが沢山ある。その中で、なんとか時間を工面してやってきたのだ。

それももう、限界。

 

「それじゃあ仕方がないな」

「仕方なくなんかない!」

 

ぷぅ、と頬を膨らませ。

まるでそこに木の実を溜めこんでいるリスのようだ、とラーハルトは思う。

ここ数日で何度も見た、泣きそうな顔の少女。

そしてこないだの主人の態度も思い出す。

何よりもくだらない嫉妬で疑われた自分のプライドは甚く傷付いたのだ。主人に疑われるなんて!

しかも主人の女に手を出したと。ああ、思い出しただけで気分が悪くなりそうだ。

 

大仰に溜息。

ふるふると、振り切る様に首を横に何度か振って。

 

「…来年はもう少し、マシなもん作るって約束出来るか?」

最大限の譲歩を差し出す。

レオナがぱっと顔をあげる。

「出来る!にぃにぃ、来年も教えてくれる?」

「……それはあんまり…やりたくない…」

「うん。私も実はあんまり教えて欲しくないかも」

レオナは少し視線を反らせてそう言うと、悪戯めいた笑みを浮かべる。

「でも、今回はありがとう」

「感謝してるなら、金輪際俺に頼みごとを持ち込まないでくれ」

「それは無理」

 

 

出来る限り、今以上。外見を整える為に、仕方なしにラッピングまで手伝ってやって。

横で「やっぱりリボンはピンクにした方が可愛かったかも。結び直して〜」とか、「包み紙、こっちの方が可愛い?」とかさんざん最後の最後まで我儘放題な小娘は、こっちの好意を無に返す程の傍若無人ぶりを発揮して。

それでも最終的には、出来栄えに満足したのか。

「凄い!可愛い!!私が欲しい!」

「…いや、自分で食べるなら何の文句もないけどな…」

頭を抱えそうになる。

 

しかし余程、出来が気に入ったのか。

目の高さまで持ち上げて、色々な角度から眺めて。

 

「ダイ君、きっと喜んでくれるよね?」と。なんとも青臭く、可愛らしいことを言うので。

「まぁ、お前から渡されるものなら何だって喜ぶだろうさ。あの人は」と返して。

 

嬉しそうに。

幸せそうに笑う少女の後ろに、主の笑顔が目に浮かぶようで。

こっちまで釣られて、笑ってしまう。

 

「お幸せに」

「言われなくても、私は幸せになるわ」

 

何処までも。何処までも強気で前向き。この姿勢は惚れぼれする。

だから憎まれ口を叩くのも程ほどに。そっと少女の背中を押した。

 

「さ。じゃあ幸せになっといで」

 

 

§§§§§§§§§§§§§§§

 

「ダイ君!」

 

遠くからレオナの声がする。

振り返って確かめると、家の方から駆け足でこっちにやってくる少女の姿が。

なんだか久々に見る気がした。

駆け寄りたい気もしたけれど、自分の方に嬉しそうに駆けてくる、その姿がなんだか嬉しくて。

手を大きく振って。その場で。レオナが辿りつくまでの短い時間、それを堪能する。

 

駆けてきたレオナは、息が切れて、頬が上気して赤く染まっている。

吐き出される白い息と。嬉しそうな笑顔。

 

「そんなに慌ててどうしたの?」

「ダイ君はもっと世間の行事を知らなきゃだめだわ。今日はバレンタインなのよ?

 バレンタインに女の子が走ってきたら、用事はひとつしかないじゃない」

 

そうゆうものなのだろうか?だけど彼女がそうゆうなら、きっとそうなのだろう。

良く解らないけれど「ふぅん、そうなんだ」と頷いて。彼女が楽しそうだから、笑う。

だけどレオナはこっちが理解してないことを敏感に察知して「もう、ダイ君は困った子ね」と。いつものように姉さん風を吹かす。

けどそんなところも好きなので、「うん、ごめんね」と。

 

「バレンタインデーはね。好きな男の子にチョコレートをあげる日なのよ」

仕方がないから答えを教えてあげるわ、と言って人差し指をぴんと立てて。

それでいて、秘密を打ち明ける様に小声で言う。

「…去年もレオナやマアムに貰ったし、知ってるよ?」

「知ってるならなんでそんな反応なのよ?ダイ君は相変わらず淡白よね〜」

なんで、と言われても。確かにチョコレートを貰えることは嬉しいけども、それは慌てて駆け寄って渡さなきゃならないものじゃない筈だ。

それともそんなに早く渡さないといけないのだろうか?

「溶けちゃうの?」

「溶けないわよ!…多分」

そう言って心配そうに。そっと彼女は大事そうに鞄の中から、綺麗にラッピングされた箱を取り出す。

「ダイ君にあげる」

「ありがとう」

 

開けるのが勿体なくなるような、綺麗なプレゼントだった。

だから差し出されたソレを受け取って、素直に「なんか開けるの勿体ないや」と言うと。レオナは笑いながら「私もそう思うわ」と返して。

「だって中身より外見の方が綺麗なんだもん」

「そうなの?」

「…まあね。だけど、それでも随分とマシになったのよ?最初はバブルスライムだったんだから」

 

そこで漸く、中身がレオナの手造りだと気が付いた。

 

「作ったの?」

「作ったわよ!大変だったんだから。にぃにぃがスパルタで」

どれだけ大変だったのかを伝えようと、レオナな説明しながらその豊かな表情をころころと変えて。身振り手振り。

それでもとても楽しそうで。

確かに大変だったんだろうけど、それでもとても楽しそうで。

ほんの少し。柔らかくなってた気持ちが固くなる。

 

「レオナは…ラーハルトが好きだよね?」

「好きよ?当然じゃない。なんで?嫌いなの?」

あまりに屈託なく認められて、ダイは次の言葉を継ぐことが一瞬出来ない。

それでも、ん?と小首を傾げて促されて。「俺も好きだよ…」と認める。

決して面白くはないが、ラーハルトに非があるわけでは一切ない。それは紛れもない事実で。

だからますます。自分が惨めになってくる。

「ラーハルトは…いい奴だよね…カッコいいし、強いし、優しいし」

「…優しいかしら??」

「優しくない?」

「優しいかもしれないけど、ダイ君にだけだと思うわ…」

そう言って、レオナはげんなりした顔を見せる。

しかし少し考えて、「まぁ…優しいのかもしれないわね…少なくとも面倒見はいいと思うわ」と言い直して。

思い返して、ふふ、と笑う。

そんな彼女の表情を見て、ダイはまた少し嫌な気分になる。

受け取った箱を手の中で弄びながら。

「そうだね、仕方がないよね…」

「?」

そこでレオナはダイの態度が微妙に少しずつ、変化していることに気が付いた。

俯き加減で、こっちを見ようとしない。

「どうしたの?ダイ君。にぃにぃに苛められてるの?」

「…苛められてないよ」

「じゃあ急にどうしたって言うの?」

「別にどうもしてないよ」

「嘘おっしゃい」

ぴしゃりと。両腕を腰にあてて高飛車に言い放ち、レオナは睨むと何処までもきつくなる双眸に力を込める。

そもそも、ダイはレオナに逆らえるようには出来てないのだ。

暫く、じっと睨まれれば。渋々ながら口を開かざるを得ない。

 

「やっぱり…レオナはラーハルトが好きなんだね。

 けど仕方がないと思うよ…確かにラーハルトはカッコイイし、背も高いし、頼りになるし、優しいし、料理だって旨いし。

 レオナの大好きなお菓子だって毎日作ってくれるし…」

 

最初はぽかん、と聞いていたレオナだったが。

後半に差し掛かる頃には、徐々に肩が震え始め。

ダイが言葉を言い終わる前に、噴出していた。

 

「ダイ君っ…!!何言ってんのっ?…ぷっぷふふっふふふっふふふふっ…」

 

一応、必死で堪えようとしているけれど、それは無駄に終わっていた。

無理に堪えようとするので、余計に収拾がつかなくなり、とうとうレオナはその場にしゃがみ込んで笑い始める。

 

「何??ぷぷっ…もしかしてやきもちなの?ぷぷぷぷぷぷぷっ…にぃにぃに??ぷぷっ…」

 

衝動が抑えきれないレオナは、地面をバンバン叩いて。そして暫く笑い続けた。

最初は何が何だか解らないで見ていたダイも、流石に此処まで笑われると次第に腹が立ってきて。

ぷぅと頬を膨らませて「そんな笑うことないだろ?」と苦情を呈する。

しかしそれでも、一度ツボに嵌ってしまったレオナはなかなか其処から抜け出せず、膨れてむくれるダイを眺めながら暫く、あんまり上品とは言い難い状態で笑い続けた。

 

「あーーーーー…あーーー……はぁーーーーー」

 

少しずつ。笑いが治まってくる。

顔をあげて、すっかり機嫌の悪くなったダイを見て。レオナはどうしても緩んでしまう頬もそのままに「ダイ君ごめんごめん」と全く誠意の籠ってない謝罪をする。

勿論、それでダイの機嫌が納まるわけではない。

ぷいっと横を向いたまま、レオナの方を向こうともしない。

だからレオナはその横顔に向かって、喋り始めた。

 

「ごめんね、ダイ君。だって思ってもみなかったんだもの。にぃにぃに…ぷぷぷぷぷっ……ああ、ごめんなさい。

 でも普通、ないじゃない?そんなこと。あり得ないわよ。どうしてそんな風に思っちゃったのかしら?想像力が豊か過ぎるわ」

 

ダイは何も答えない。

だからレオナは色々考えるしかない。

 

「最近にぃにぃと籠ってたからかしら?でもソレはチョコレートの作り方を教えて貰ってたからよ?

 ダイ君に秘密にして驚かせたかったんだの。にぃにぃにも黙っておいてもらえるようにお願いしたの。

 それが気に入らなかったの?ダイ君、のけ者にされたみたいに感じちゃった?」

 

此処最近のよそよそしいのは、自分を驚かせたかったのだ、と聞かされて。少しだけ、ダイはレオナの方に顔を向ける。

 

「本当はね。マアムやメルルに教わっても良かったのよ。だけどね、二人とも普通に作れちゃうんだもの。

 好きな人にあげるお菓子を作れることが普通なんだもの。

 私だって、それが普通になりたかったの。女の子として、プライド傷付いちゃうじゃない。

 ダイ君だってイヤでしょ?彼女がお菓子ひとつ作れないなんて」

 

そんなことはない、と言いたかったけれど。レオナの言葉がどんどん続くので、言葉を挟むタイミングが作れない。

 

「だからにぃにぃにお願いしたの。最初は嫌がられたんだけど、無理矢理お願いしたら聞いてくれたわ。

 にぃにぃは前から思ってたけど、押しに弱いわよね。顔がカッコイイのに押しに弱いなんて、きっと苦労すると思うわ。変な女に捕まる前に誰かいい人と付き合うべきね。

 ん?話が反れたわ。

 にぃにぃの作るお菓子、美味しいじゃない?ダイ君も毎回褒めてるし。

 ダイ君が褒めてるってことは、ダイ君の舌に合うってことでしょ?そしたらにぃにぃに教われば、ダイ君が美味しいと思うお菓子が作れちゃうじゃない。一石二鳥でしょ?

 折角作っても口に合わなかったらイヤだし。そこのところ、にぃにぃなら大丈夫だし」

 

この頃には、ダイはすっかりレオナに向き直ってる。

 

「にぃにぃのことは大好きよ?でもダイ君はもっと好きだわ」

 

にっこりと。何処までもストレートに。

言葉を装飾することなく、レオナは口にする。

そこに一切の嘘はない。

彼女はいつだって、何処までも何処までも真っ直ぐだ。

 

「それにもし、結婚したらにぃにぃは私のお義兄さんになるのよ?好きにもなるわ」

 

合いの手を入れさせないマシンガンのようなトーク。

俺も好きだよ、も言わせてくれない彼女。

けれどそんなことを一切気にすることなく、レオナは喋り続ける。

 

「しかしダイ君がやきもちを焼くなんて。全く以て意外だわ。なんか新鮮だわ。相手がにぃにぃって言うのが微妙だけど。

 けどそれって、それだけ愛されてるってことなのかしら?

 それとも疑われた!って嘆くべきなのかしら?どう思う?」

 

意見を求められたので、応えようとすると「まぁいいわ」と返事を取り上げて。

 

「たまにはこんなのもいいのかもしれないわ。面白かったし。

 ダイ君、とりあえず、それ。勿体ないけど開けて、食べてくれる?」

 

言われて。自分が貰ったチョコレートの箱をずっと持ったままだったことを思い出した。

見れば、また。確かに勿体ない気もするのだけど。折角作ってくれたのだから、食べたいのも事実で。

言われるまま、押し切られるようにダイは箱にかけられたリボンをほどく。

「リボンも包み紙も全部、私が選んだの。ダイ君をイメージしてね」

嬉しそうに、ひとつひとつ説明してくれるレオナの声を。いつの間にかすっかり収まった機嫌で聞いて。

自分をイメージした、という空の色の包みを外すと。中からまた綺麗な箱が出てくる。

元は白い箱だったようだが、そこに色んな色の紙やシールを貼って。その仕上がりはなんともレオナらしかった。

 

箱をそっと開けると、そこには丸いチョコレートがいっぱい入っていた。

「本当はね。綺麗に出来たものだけ詰めようと思ってたんだけど、折角作ったんだから勿体なくて。入るだけ詰めちゃった」

何とも豪快なことを言って。確かに言われれば、中には多少不格好な物も混じってるけれど、それでもどれも美味しそうだった。

 

「凄いね、これ作ったの?」

「そうよ!大変だったんだから。凄いでしょ?」

褒めると嬉しそうに。そして何処か誇らしそうに笑う。

「最初は全然丸く出来なくてね。本当にバブルスライムみたいだったのよ」

そういって、また如何に苦労したかを面白可笑しく語りだす。

それを聞きながら、ダイはひとつ。つまんで口に入れてみた。

 

甘くて。美味しい。

 

「美味しいよ、レオナ」

「本当に?にぃにぃからは最後の最後まで駄目だしされたんだけど。良かった〜」

 

キラキラした顔で笑う。

その笑顔につられて。

 

「俺もレオナが好きだよ」と。

さっき云いそびれた想いを告げると。

レオナは顔の前で人差し指を左右に振って。

 

「駄目ね。ダイ君、解ってないわ。

 今日はバレンタインなの。女の子が男の子に告白する日なのよ。だからダイ君は言っちゃ駄目なのよ」

「ええ?そうなの?」

「そうよ。今日の分はまとめて何倍にもして、ホワイトデーに伝えてくれればいいわ」

 

何倍にもして伝えるとは、どんなことをしたらいいんだろう。

解らないで困惑していると、レオナは楽しそうに。手元のチョコレートを一個摘まんで口に放り込む。

「一個貰うわ」

もぐもぐと自分の作ったチョコレートを食べて。

「……悔しいわ。やっぱりにぃにぃの作った奴の方が全然美味しい」と。ちょっと残念そうな顔をする。

「確かにラーハルトが作るのは美味しいけど、俺はレオナが作ってくれたこっちの方がいいよ」

素直に返せば。

レオナはぽかん、とこっちを見て。

 

「あら、やだ。ダイ君。それってば最強の殺し文句ね」と。

 

今日、最高の笑顔を見せた。

 

 

 





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