01 冷たい刃先

 

反射する、硬質的な光は一切の拒絶をもって。そこにある。

そこには『光』というものが共通して持ち合わせている筈の『暖かさ』や『希望』なんてものは存在しない。

総てを、ただ一心に拒絶するような。

何ものも追いつけないような。

そんな何処までも孤高な光。

 

それはその刀を構えた、目の前の男の放つ眼光と同質な光だと、風間醍醐は思った。

 

突き付けられた切っ先は、微塵もぶれることなく、ただ宣告される『死』のようにそこにあった。

まるで、自分の生殺与奪の権をその手に握っているかのような圧倒的な威圧感をもって。

あたかも、死刑執行者と受刑者のように。

そこには一切の迷いも、慈悲もない。

 

ただ、淡々と。

生命を刈り取る意思を乗せた刃先が、俺に突き付けられている。

 

「風間醍醐だな」

 

だから、その男が自分の名前を呼んだことも、何故か少しも不思議に思わなかった。

それこそ、死神がその手に持っている帳簿に書かれた名前を読むかのように。そんな超常的な何かすら感じさせた。

 

「お前は?」

 

それだけの何かを生じさせることが出来る、目の前の男に興味を持たないわけがない。

確かに、俺は目先の『学校襲撃事件』を追って此処までやってきたが、事件とこの男が無関係だったとしても、俺は知りたいと思った。

 

男は、同じ人間だとは思えない程に整った面の眉間に、微かに皺を寄せて。

刃先同様に、物質的な冷たささえ感じさせそうな冷たい視線を俺に向けて。

ほぼ、唇を動かすことなく、それでいて明瞭な声で

 

「忌野雹」

 

自分の名前を名乗った。

 

『忌野雹』

俺は言われた名前を口の中で唱えて、残された隻眼で目の前の男を真っ直ぐに見据えた。

 

見れば見るほど、現実感の伴わない男だったが。

それでも発する殺気や、突き付けられている切っ先は紛れもなく現実そのもので。

そのギャップに、頭の奥が麻痺したように痺れを覚える。

 

一度見たら忘れることなど出来やしないだろう存在感と。

それでいて、現実離れした容姿と雰囲気が、その存在感と相まってまるで幻惑の中にいるかのような錯覚に陥らされる。

なんとも不安定で。

どうにも落ち着かない。

 

だがそれでも、突き付けられた刃の冷たさと。

向けられている視線の冷たさが、幻惑だ、夢だと、現実逃避させる自由を奪う。

 

 

一瞬だけ。

それでもその瞬間、殺されてしまうのではないか、という不安を拭って目を瞑る。

 

その一瞬で、飲み込まれそうな精神を切り離して、自己を取り戻す。

 

 

瞳を再び開いた瞬間、俺の微かな変化に気付いたのか、相手の表情に怪訝な色が浮かんだが。

その後、ゆっくりと。

ほんの微かに、口角を上げて作る。笑みと呼ぶには控えめな、しかしそれ以外になんの形容のしようのない表情を浮かべて。

 

 

「成程。聞きしに勝る男のようだな。面白い」

 

声音には先程にはなかった愉悦の色が混じっていた。

声に釣られて、俺も笑う。

 

「俺も、お前の様な男に会えるとは思ってなかったよ」

 

視線は空中で絡まる。

 

 

そして、冷たい刃先が交わる場所で、俺と忌野は邂逅を果たした。

 

 















 

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