07  それはまるで霧の中を進むような

 

暗中模索。

数メートル先も見えないような、そんな視界で。

手探りで自分の立ち位置を見極めるような危なっかしさで。

なんとか、地面の上に立つことに成功している。

 

まさにそんな感じだ。

 

 

忌野暗殺に失敗した今、暗殺依頼を発注した鷹之宮にとって、霧嶋は邪魔もの以外の何ものでもない。

それこそ、暗殺に失敗した折りに返り討ちにあって、死んでいればこんなややこしいことにはならなかったのだろうけれど。

幸か不幸か、悪運が強いのか、それとも逆に物凄く運が悪いのか。

どうにかこうにか生き延びて、しかも狙われた側の忌野が『咎めなし』と寛大に(?)許してしまったのでどうにもこうにも宙ぶらりんな状況に置かれることになった。

 

鷹之宮とすれば、忌野暗殺を指示したことが忌野にバレれば、立場上まずい上に、それこそ忌野に攻め入る隙を与えることになるわけで、なんとしてもしらばっくれたい、というか証拠隠滅を図りたいわけだが。

霧嶋としては、暗殺を企てたら、その命令側の家に命を狙われて、狙った側に守られている、というなんとも奇妙な状況に陥っていて。

少なくとも、安穏と静観できるような状況ではなく、それこそ、名前も顔も変えて隠遁するのが唯一の道の気もするけれど、それも居案の現状では難しい、という、まさに生殺しのような、いっそ殺してくれればいいのに、と願わずにはいられないような状況だ。

忌野にとっては、今や霧嶋は暗殺にやってきた刺客、ではなく対鷹之宮の重要な証拠で、札の一枚。

鷹之宮にとって霧嶋は手駒ではなく、今や忌野に握られた弱み。

 

 

なんとも四面楚歌。

万事休すな状況。

 

この国を影から牛耳っていると言っても過言ではない家、二家に囲まれた現状。

打破の為に逃げ出すというのも、きっと容易に見付けられるだろう。現実的ではない。

 

考えて、とりあえず唯一生産することを拒まれない溜息を生み出して、ゆるゆると首を振る。

目を閉じても、否定しても、現実が変わることなんてないのに。

 

今まで。

特にこれと言って目立つ家ではなかった。

悪く言えば、いくらでも替えの効く存在だった。

特別になりたい、と。

成り上がりたいと、常に願っていた。

重要な人間になりたい、と願っていた。

今現在、重要な人間ではあるが、これは願っていた形とは似ても似つかない。

 

前までも、決して先行きが安泰なわけではなかった。

それこそ、糸の上を歩くような危うさで危険を渡ったことだってあった。

先の見えない不安は、馴染んだ皮膚のようなものだった。

 

しかし。

 

これはプレッシャーが違う。

何時だって殺されるかもしれない、という危険性を意識してなかったわけではない。

覚悟しているのと、覚悟しなければならない状況に追いやられている、の違い。

危険がいつ来るか解らないのと、目の前にあるの、の違い。

 

考えて。

馬鹿馬鹿しくなって。

思考を放棄した。

 

考えた所で。

どう動いた所で。

きっと誰かの掌の上。

 

ならば、どうなってもいい、くらいの覚悟で。

一歩先も見えない濃霧の中、好きに進むのも良いかもしれない。

 

誰かの手の上ということは、どんな行動を取ろうと、それは自分の責任の上にない、ということ。

ならば、いっそ。好き勝手に暴れるのもいいだろう。

 

 

「窮鼠猫を噛む、か。それも僕らしく面白い」

 

此処まで来たのなら、もう後戻りなんて出来やしない。

それならば。

 

 

自然と、口角が上がって笑みを作る。

 

 

湖面に小石を投げいれる如く。波紋は小さくても徐々に広がり、細波を起こすが如く。

 

 

 

 

僕は諦めない。

 

諦めない。

 

 

 








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