らしくない。
言われなくともそんなことは自分が一番解っている。
だけど仕方がない。
愛した女の腹の中に宿る生命が日に日に大きくなっていき、とうとう。
弱音を吐いた。
女を実家に帰し、俺はその日を指折り数え。
月が満ちるのを。
その奇跡の時を。
待ちわびる。
しかし結局。
堪え性がないと揶揄されようが。
待っていることなど出来なくなり。
森と村との境界線。
俺はそこでじっと女の家を見る。
見ているだけで何が変わるわけでもないけれど。
それでも、ただ。
その日まで。
そして。
月だけが空に。
空気が騒ぐ夜。
引き寄せられるように、境界線を飛び越えて。
こんな夜には不釣り合いな喧騒。
女と男の言い争う声。
興味などなかったが、場所が場所だけに。
そこが女の実家だった為に。
俺はつい、と覗き込み。
男の手の中には赤ん坊が。
そしてそれを取り上げようと女が。
微かな月明かりでも充分な、俺の瞳は。
その赤ん坊が 自分と同じ 青い肌をしていることに気がついて。
2人の前に姿を表すと、決まった反応。
嫌悪と恐怖。
そしてその後、2人とも合点がいったのか赤ん坊に視線を這わせて、「父親か?」と問いた。
意外にも女は(引きつってはいたが)笑みを浮かべ、「可愛い男の子ですよ」と。
男の子。
男の子。
手を伸ばすと、応えるように。
柔らかい感触と体温が手渡される。
男は姿を消し、女は俺に赤ん坊の抱き方を教えながら。
「お嬢様をお願いしますね」 と小さな声で。
彼女の母親だと予想していたのだが違っていたらしい。
俺は腕の中に我が子を抱きながら。
その当然過ぎる願いに頷いて見せる。
魔族に金髪は存在しない。
魔族に翠の瞳は存在しない。
この子は誕生も、存在も総て奇跡。
母親に似た口元に唇を寄せて、俺は総てに感謝する。
感謝。
感謝。
それ以外に何が出来る?
俺は自然に綻ぶ頬を止めることが出来ず、簡単に壊れてしまいそうな、あまりにも小さくて柔らかい我が子を ただただ。
ただただ。
慈しむ。
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