朝の情景(ヒュンケル編)




朝は大体、5時前に起きる。

決めているわけじゃなく、自然と目が覚めるのがそれくらいなだけ。
軽く着替えて、身体を動かす。ストレッチを重点的に、筋トレを少々。
その後、シャワーを浴びて朝食の準備。といっても、そんなたいしたものは作れないのだけど。
簡単なサラダと、ハムエッグ、そしてコーヒーとトースト。オーソドックスな、朝食メニュー。

 
一応、調理にかかる前に彼女に声をかける。
コレが一度目。

ある程度、調理が片付いて完成間近にもう一度。
食べる前にもう一度。

 
しかし結局、いつも通りの時間にならないと起きてこないのはわかっている。
 

朝食が冷めるか冷めないかくらいに、バタバタと慌ただしく起きてくる気配。
ソレを確認して、コーヒーを入れて、彼女の到着を待つ。

 
顔だけ洗って、寝癖はそのままの彼女は、それでもまだ眠たそうな顔をしながらふらふらと近付いてきて、ぺたり、と椅子に座った。
その頃には、淹れたコーヒーも猫舌の彼女が飲める温度になっている。

「おはよう」

寝起きで舌足らずにも聞こえる声でそれだけ言って。
そして大きな欠伸を。

食べ終わった俺は、彼女の前の席でそれを眺めながら毎朝の風景なのに、ついつい笑いを零してしまう。

 
自分の分の食器を片付けて、手の空いた俺は、食べている彼女の寝癖直しに取り掛かる。

昔はこんなこと、しなかったのだけど。

寝癖を直していて、朝食を食べる時間を無くしてしまった彼女を何度か見ているうちに結局こうなった。
最初は他人の髪を触る、という慣れない行為に戸惑ったけれど、今はコレも楽しい作業のひとつ。

 
彼女が食べ終わる頃には、大体完成。
そしてソレを見届けると、ちょうど出勤時間になる。
その頃には彼女も大分覚醒していて
「忘れ物ない?」とか「帰りは何時くらいになるの?」とか、いつもの。いつものしっかり者の姿を覗かせる。

さっきまでとのギャップにもだが それは彼女が俺に甘えてくれているのだ、と 思うと一層。知らずと笑みがこぼれる

 
彼女に見送られて、「行ってきます」と言う度になんとも言えない気持ちになる。
「行ってらっしゃい」と言われる度に。

くすぐったいような。
そんな感覚。

だけど決して、不快ではない。

 

 


そして、俺は 「ただいま」を言える場所を意識しながら。
「おかえり」 と迎えてくれる人を意識して。
噛み殺し損ねた笑みは、表面にこぼれて。

「参ったな」

ほんの少し、にやけた口元を手で覆いながら 澄んだ青空を見上げた。









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