色々な事情があって、まぁ説明するのもやぶさかではないけれど面倒くさいので。
とりあえず。
簡潔に。
「雇われバーマスター、始めました」
それだけ伝えると、自称親友の糞真面目戦士(ゾンビ)はきょとん、と戦場では絶対に見せないボケまくった顔をして。
その戦士の相方である、オリハルコンを素手で砕くという、奇天烈吃驚人間の女(通称ピンク)も同じようにきょとんとしてみせて。
まぁ夫婦というのは似てくる、というから、この反応はそうゆうものなのかもしれないが。
全く。普段協調性とはなんぞや?みたいな人生歩んで来てる癖に、こうゆうところではオリジナリティも欠片もないのか、と思えば、ただでさえ面白みのない男がいつも以上に糞みたいに見えてくるから不思議なもんだ。
「なんだかとてつもなく悪口を言われてる気がする…」
こうゆう勘は本当鋭いよな、お前。
肝心の、敏感になっていいだろう勘は何処までも何処までも鈍い癖にな。
俺の視線を受けると、何かを感じ取ったのかそっと視線を反らした。
何か思い当たることでもあるようだ。
そうやって色々悟れるようになったら、きっと周りの人間(特に俺)は楽になるだろうよ。
ゾンビの成長を願いつつ、視線を更に横に動かす。
次に視界に入ったのは、幼い主の親友だという魔法使い。魔法使いでも、ミドリでもなんでもいいや。ちなみに煩わしさは兄のゾンビ譲りなのか、此処最近何かと面倒をかけてくれる。
魔法使いも同じように驚いた顔をしていたけれど、それでもまだ脳細胞が死にかけているゾンビと、世界で最も硬い鉱物を素手で砕こうとチャレンジするようなアッパラパーとは違って、言った内容をすぐに理解したのか
「え?どこの店?」と次のステージの質問を投げかけてくる。
やはり戦士や武闘家に比べて知力の高い職業は違う。
こいつは流石に、ゾンビやピンクと違ってオリハルコンを素手で砕いてみようなんて暴挙には走らないだろう。
「さっきから、オリハルコンを砕くことが凄い気に入らないみたいね…」
「まぁ…兄ちゃんは出来ないからな」
違う。
断じて、自分が出来ないから、ではなく出来るお前たちがおかしいんだ、ということの自覚をして欲しい。
一瞬、首がすっ飛ぶくらいのスピードで頭をはたいてやろうか、とも思ったけれどゾンビの場合、首ちょんぱしたところで何故か生きててもおかしくないので(そしてそんな人体実験気持ち悪いだけなので)思いとどまる。
自分の冷静さに拍手を送ろう。
そして更に横。
幼い主の想い人であり、この国の主の小娘。呼称は小娘で充分と判断した。は、周りの反応とは打って変わって、それこそ面白いものを見付けた、と言わんばかりに目をキラキラさせていた。
一瞬で俺の言ったことを飲み込んだらしい。
流石。賢者と呼ばれるだけある。
絶対に小娘はオリハルコンを…(以下略)
「だから余程気に食わないんだな……」
五月蠅い。人外魔境が!
そしてその横にいる、幼い主は驚いた風でもなく、いつも通り笑顔で「へぇー」と。それだけで納得してみせた。
器が違うのだ、と思う。
決して何も考えてない、とかでなく。
この何ごとにも動じないところは、お父様譲りと言えよう。
…まぁお父様は結構動じるけどな……
「兄ちゃん………」
「黙れゾンビ」
ていっ!と額をチョップで打ち据えて黙らせる。
全く。喋る死体なんて鬱陶しくて敵わん。
「でも、にぃにぃがバーとか面白そう。絶対に行くわね」
「来なくてよろしい。っつーか子供はくんな」
文句を言おうとする口に、今日のおやつのプチシューを押し込んで黙らせる。
この段階で、安請け合いしてしまったかも…とほんの少し後悔したけれど。
まぁやってみて、正直面倒極まりない、と思えば辞めればいいだけの話。
どうせ、俺の夜なんて眠れなくてダラダラするだけなんだから。
なんだか言い聞かしてるみたいになってしまったが。
気持ちを切り替えて、出来る限り目の前の面々の顔は見ないようにした。
それぞれの表情で、なんだか不安が増すような気がしたから。
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