私は過ちを犯した。
それは確かで。
それは恥じるべきなのだろうけれど、それでも何故か。
いや、私くらいは。
産まれるはずだった子供のことを恥じなくてもいいんじゃないか、て 思っていた。
身寄りのなかった私が、住み込みのメイドとしてお屋敷で働けるようになったのはとても幸運だった。
それは、今思い返しても揺るがない。
私は幸運だった。
当時、奥様は旦那様と結婚して六年目。
子供を授からないことを、口には出さなかったけれど悩んでおられるのは痛々しい程よくわかった。
そして旦那様も焦っておられたのだと思う。
この『家』で、跡取りが産まれないということのプレッシャー。
それは私など一般市民からは想像もつかないものだろう。
§§§§
結果。
私は。
旦那様の子供を『懐妊』した。
§§§§
しかし皮肉なことに。
その直後、奥様の妊娠が発覚した。
少しでも愛してくれていると思っていた愚かな若い娘は、急変した旦那様の態度に驚いたけれど。納得も、した。
全く人となりを解っていなかったわけではない。
メイドとの火遊びなど、何処にでも転がっている在り来りの話の一つ。
愛されなくても良かった。
私は家族が欲しかった。
幼いときに身内を失った私にとって『家族』というものは憧れるものだった。
だからそれだけで。
私はお腹の中の赤ちゃんを愛した。
§§§§
私の赤ちゃんは。
『死産』だった。
産声を聞いた気がしたのだけど。
変わり果てた我が子を神父様に手渡されて、私は冷たくなった家族を抱きしめながら泣いた。
そして、その一月後。
『お嬢様』が産まれた。
本当に愛らしい赤ちゃんだった。
温かくて、可愛らしくて、聡明そうで。
私は自分の子供の分も、この子に愛情を注ぐことにした。
いや、自然とそうなった。
彼女は私にとって。
本当の娘も同然。
立場の違いは自覚していたけれど、愛情に格差などなかった。
§§§§
月日が経って。
彼女の子供を旦那様が殺そうとしたのを見たときに、私は全てを悟った。
私の子供もこうだったのだろう。
だがそれを今更恨みはしない。
しかし目の前の赤ちゃんだけは殺させるわけにはいかない。
同じ過ちは繰り返させない。
『娘』には、私と同じ痛みを味合わせたくない。
§§§§
彼女はその手に我が子を抱いて、とても幸せそうだった。
近くには、そんな彼女を愛し、見守る男がいた。
彼女達はとても、とても幸せそうだった。
それは本当に。
何処にでもある、幸せな家族の情景だった。
§§§§
今。
私の時間は尽きようとしている。
彼女達のこれからを思うと、いたたまれない。
あの愛らしい『孫』のことを思うと、心配で気が狂いそうになる。
しかし私に出来ることは、神に祈ることくらいしか残されていない。
ああ。
ああ、どうか。
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