襲撃があったのは、冬の頭.。
男たちがそれぞれ武器を手に、家に押し入った。
子供部屋に通じる扉の前に立ち、私は男達に対峙する。
後ろの若い馬鹿達は、ただの憂さ晴らしなのだろう。悪戯にそこらにある家具を破壊して、下品に笑っていた。
「おい、化け物を出せよ」
開口。
そして汚い手が伸びてくる。
それを叩き落として、すぐ取れる所に常備してある、女でも扱い易い片手斧を手に取った。
瞬間、空気が変わる。
「化け物?なんのことかしら。
ここにいるのは、私の可愛い天使ちゃんよ」
足が震えているのを悟られないように。私は尊大に笑ってみせる。
弱みを見せては駄目。
弱いと思われては駄目。
笑うのよ。
いつだって。
「ははっ、やっぱり気が触れてるようだな」
嘲笑には嘲笑を。
「あら。こんな夜分に女と子供しかいない家に、しかもこんなに大勢で押し入ることは正常なのかしら?
私にはそっちの方が よっぽど気が触れているように思えるわ」
じりじり、と。
間合いが狭まる。
絶対にこの子には手を出させない。
近寄らせない。
その為なら、この場で強姦されようとも。
最悪この子さえ守れるなら 殺されたって構わない。
私は片手斧を振りおろす。
私に触ろうとしていた手が、びくりと引っ込んだ。
「覚悟してきたのでしょう?
それとも、覚悟もないくせに来たの?」
絶対に ここは引かない。
絶対にあの子は守って見せる。
「あの子に手、出す気なら。
どんな手段を使ってでも
あんた達… ───────────────── 皆殺しにしてやるから 」
§§§§
髪を掴まれ、引き釣り倒される。無我夢中で斧を振り回し、手当たりしだいに噛み付いて、暴れ狂った。
それでも押さえ込まれて。
ビリビリと力任せに服を破られる。
彼以外に見せたことのない肌が、ひやりと空気に触れて、鳥肌が立つ。
私の上に乗ろうとしている男を。
私はその瞳をじっと覗き込んだ。
「覚悟、出来ているのね?
私の誇りを蹂躙する覚悟が。
・・・・・・・・・人から獣に堕ちる覚悟が 」
一瞬、男がびくり、と震えた。
§§§§
直後に悲鳴が。
そして怒号が。
生臭い血の臭いが。
何が起こったのか解らず、確認するにも私を押さえつけている男が邪魔で。
抜け出そうと身体を捻った途端に。体中に温かい液体が。
それが、自分を襲おうとしていた男の身体から噴出しているものだ、と。
目の前の、首のなくなった男の姿を見ても理解できなくて。
私は暫く、その場で動けなかった。
べろり、と顔を舐められて。
私は、視界で唯一動いている、その生き物。キラーパンサーに気が付いた。
「・・・・・・・貴方・・・・・・
彼のお友達ね・・・・・?」
昔、森で生活していた時に、何度も見かけた。
ラーが小さい頃、よく背中に乗せて遊んで貰った。
応えるように、またべろり、と舐められて。
私はやっと、自分が血塗れだと気が付いた。
部屋の中には死体が五体。
首を撥ねられたヤツ。
牙で刺し貫かれたヤツ。
爪で引き裂かれたヤツ・・・・
その壮絶な地獄絵図と臭いに頭痛を覚えながら、それでも背後の扉が無傷なことを確認して、肩の力を抜いた。
「ありがとう・・・・ 護ってくれたのね
彼に頼まれたの?」
べろべろ、と血を舐め取ってくれているその首に抱きついて、今はいない彼を想う。
あの子を護ってるのは、私だけじゃない。
それがどれだけ心強いか。
ぎゅう、と抱きしめて、血の臭いのする毛に顔を埋める。
ラーが見ていない少しの間。
ほんの少しでいいから。
私は泣いた。
あの子の前で、いつも通りに笑えるように。
§§§§
部屋を何とか片づけて、服を着替えて、死体は外に放り出した。
他にしようがないから。
逃げたヤツもいるから、誰かがそのうち回収に来るだろう。その時話も聞かれるだろうけど、そんなことは後回し。
今は考えたくない。
家具は破壊されて、床は多少拭いたとはいえ血塗れ。
天井まで付着している血は、もう諦めた。
これ以上、ラーハルトを部屋に閉じ込めてはいられない。
不安できっと堪らないだろうから。
私は鍵を外して、そっと中を覗く。
「・・・・・・ラー?」
瞬間。
私の腕の中に天使が飛び込んできた。
その小さな身体をガクガク震わせて、小さな嗚咽が。
「ラー、ごめんね?もう大丈夫よ・・・・・」
上を向かせようとしても、泣き顔を見られたくないのかイヤイヤをして。その代わり私の胸に頬を更に擦り寄せた。
小さな頭を抱きながら。私も震えていることに。
この子の無事な姿を見たことで、一気に。
かくん、と腰が抜けた。
吃驚したラーが顔をあげて、その可愛らしい顔をやっと見れた。
涙でぐしゃぐしゃだけど。
やっぱり貴方は、本当に可愛いわ。
私はキスの雨を降らせながら、腕の中の天使に微笑みかける。
放っておかれたキラーパンサーが、構って欲しいというように、その巨体を擦り寄せてきた。
私達は久々に。
こんな地獄絵図の中だけど。
久々に穏やかに気分になれたの。
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